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オランダ・かもめの会

かもめの会創立35周年記念講演会 報告

「子どもの教育と幸福」

ー ユニセフのレポートをきっかけとして ー

日程: 2019年 2月10日(日) 12:45~16:30

会場: 囲碁会館(ヨーロッパ 囲碁文化会館)アムステルフェーン

出席者:会員+非会員 42人

はじめに:

 35周年目に当たる今回は、子どもたちの教育と幸福について考えてみることにしました。ユニセフのイノチェント研究所が毎年行っているアンケートで、2013年の報告書で、オランダの子どもたちは世界一幸福だと知られるようになり、日本との比較というレポートも日本語でマスコミに出回るようにもなりました。私たち会員は日本で教育を受けオランダに長年住み、子育てを行った、もしくはいま子育て真っ只中にいます。日本とオランダの両方の教育を知っている我々はオランダで子育てをした経験上、オランダの教育に疑問を持ち、このレポートを検証してみることにしました。子どもの幸福度をどのように調べたのかという単なる疑問とオランダの教育・教育制度について月例会で話し合いました。それから広く会員外の方たちの意見や体験を話していただき、もっと多くの方々と共有したいと思い、今回の講演会の運びとなりました。

 その中でもここ数年、オランダには個人企業主とか教育移民という形で小さな子どもをつれた邦人家族の移民が増えてきているので、まずその当事者家族に月例会に来ていただき、オランダに来る前とオランダで生活し子どもを学校に入学させてからの、体験などをお話してもらい聞き取りいたしました。

 日本からオランダに移住を考えた理由として、以下のことが挙げられました。:

 - 日本の小学校は、幼稚園に比べ、教育内容に不満。

 - 先生から言われたことしかできない子になるような教育など教育内容に不満。納得が行かない点が多い。

 - また学校が崩壊している。子どもをそのような学校に行かせたくない。

 - 小学校では、自分の子供時代とほぼ変わらない内容の授業が行われ、今の日本の教育で、目まぐるしく変化する現在の世の中に対応できるのかと疑問を感じる。

 - 日本では教育費が高く子どもに高等教育を受けさせる経済的余裕がない。


Photo by Studio Adachi

講演会のスピーカー:

① 関野美智子(かもめの会会員)

 ユニセフ、イノチェンティ研究所出版レポートの解読。在蘭歴46年。3人のお子さんたちを育て上げたベテランです。まず最初に、子どもの幸福はどのように調査されたか、幸福度の物差しを皆さんに客観的に話してもらいました。

② 吉見真紀子:(通訳・翻訳家)書籍 「世界一幸せな子どもに親がしていること」翻訳者、在蘭16年。

 その本には在蘭イギリス人とフィリピン系アメリカ人の子育て経験が書かれていますが、その内容と彼女が考えるオランダでの教育について話してもらいました。

③ ストックレーフ京子:翻訳家、オランダ語日本語講師、子育て体験者。在蘭32年。

 現在24歳の娘さんの初等教育の後の中等教育がどれほど難しく、娘さんが高等教育にたどり着くまでいかに多難だったかを話していただきました。

④ 教育関係者:在蘭25年以上。

 長年オランダにて日本とオランダ双方の教育機関で教育に携わっています。数多く子どもたちが体験している様子を話していただきました。

Photo by Studio Adachi

 まずユニセフのイノチェント研究所の報告で読み解かなければならないのは「幸福」という日本語で言いあらわせられていたのは「HAPPINNESS」ではなくて「WELL-BEING」という言葉です。子どもの育つ社会環境や家庭環境を統計調査で調べてある意味で客観的に国際比較をすることができます。例えば、貧困の度合い、健康管理、犯罪の程度、失業者の数、若年者死亡率、家族の収入、子ども一人当たりの居住スペース、友達がいるか、両親と話が出来ているか、自分は生活に満足しているか、子どもたちの勉学度、世界共通試験の点数など。客観的な数字から見る福祉の次元では日本の子どもたちはいつもトップにあるオランダや北欧諸国に劣るどころか匹敵するような地位にありますが、社会の貧困の度合いが高いことで全体の順位が下がっています。

 ここで感じた疑問は、我々日本人が「幸福」と感じるのとラテン系の民族が感じる「幸福」とは質が違うのではないか?ということでした。一般にラテン系民族は感情の起伏が大きく、その表現方法も日本人とは異なるなどオランダに住む多くの他民族の人たちから感じ取ったことでした。

 そして「WELL-BEING」と「幸福」とは違った次元のもので、それをもってそれぞれの国の子どもたちを比較できないのではないかということです。

 それから吉見さんからの話の内容は、オランダの初等教育とその教育者のお話や、子育てをとりまく社会の環境についてでした。毎朝一人一人の児童にあいさつする校長先生は「学校は楽しい場所でないといけない」と言い、親は社会と関わり、仕事と子育てを両立しやすい仕組みが働いているなど、オランダの社会の良い面についてお話しされました。

 なお、オランダの教育について補足すると、初等教育(日本の小学校)には校区はないが10歳まで親が子どもの送り迎えをしなければならないのでほぼ家庭と学校は徒歩および自転車通学の距離。初等教育は4歳から12歳でクラス人数18から30名以内と少ない。学校の教育方針はその学校によりモンテソリ、ダルトン、シュタイナーなどのオルタナティブ教育、キリスト系、公立学校と特色があります。それぞれに長所がありますが、子どもの性格と学校とをよく見極めないと短所にもなります。

 オランダの教育制度の難しいところは、初等教育を終える12歳で将来の進む道、学校を決めなくてはなりません。大学進学し卒業するのはオランダ人の10%以下ですから、12歳の時点で決めるのは専門学校系か、職業系か具体的に決めていかないと、後でお話を伺ったストックレーフさんの娘さんのように何年も遠回りをして上級学校に達するということになります。

 教育関係者は、オランダの子どもたちが幸せと言われるのは、彼らを取り巻く学校や家庭での教育環境において、基本的に教師や親がそれぞれの子どもの適性を重視して、その子どもに合わない方向性を無理強いしないからではないかと考えています。適性には、例えば単一言語での学習環境において最も力を発揮できる人、多言語環境にもさほど無理なく適応する人、ということも含まれます。時代とともに変化していく部分もあるとはいえ、生活面の教育(=しつけ)は伝統的に多くが家庭(両親それぞれに)の役割、と考えられており、家庭と学校、それぞれの役割がしっかりと分担されています。その中で子どもたちは必要なルールやふるまい、例えば、他者に寛容で、自分ができる範囲での援助を惜しまずすすんでする姿を、親や学校での活動を通して実際に見ながら育っていきます。これらの活動は、各自が自由意思でやっているはずですが、なぜかどこか同じところに落ち着くという指摘がありました。

 ゲストの方々のお話の後、いろいろ質問がありましたが、結局「子どもの幸福」というのは数字で表されるものではなく大変主観的なものであり、子どもが友人や両親兄弟姉妹たちにどれだけお互い信頼を寄せ、友達がいるか?ということではないか?という方向に話が進みました。

 また日本では余りにも集団教育法でマスコミが国民をあおるような持って行き方をするが、オランダでは初等教育期間に自分の意見を持ち発表できるように教育しているのではないかということになりました。

 オランダは最初から個人の意見や人格を認める教育していたのではなく、戦前はプロテスタントの質実剛健の気質が強く、長老や目上の人たちは絶対で学校でも封建的でありました。戦後その反動でとにかく学校の先生にも名前で呼び誰でもみんな自由に話せる学校や社会を作っていった歴史があります。その切り替えがオランダなんだねという感想でした。

(報告:河南笑子 / 編集:M.M.)


講演会に取り上げられたレポート類は、こちらをご参照下さい。

「関連記事 - 先進国における子供の状況 /「幸福度」」

スピーカーの吉見さんの訳書はAmazonにて販売されています。

「世界一幸せな子どもに親がしていること」

リナ・マエ・アコスタ (著), ミッシェル・ハッチソン (著), 吉見・ホフストラ・真紀子 (翻訳)

講演会の調査・準備段階でかもめの会がインタビューした村上友浩さん(ドライバーサービス)が講演会に出席して下さり、その報告、感想をブログに掲載して下さいました。ありがとうございます。

35周年記念品のクッキーです。可愛いでしょう!

スピーカーの皆さん、

準備のインタビューで貴重な体験をお話しいただいたご家族、

当日講演会に参加していただいた皆さん、

そして1年以上にわたって準備してきたかもめの会の皆さん、

どうもありがとうございました!